風船を浮かせる
『ヘリウム』
ヘリウムガスといえば、宙に浮かぶバルーンや吸い込むと声が高くなる"ドナルドダックボイス"がすぐに思い浮かぶほど身近な気体ですが、半導体製造や医療機器でも使用される重要な材料でもあります。しかし、現在ヘリウムは世界的な供給不足の状態にあり今後、その傾向がいっそう強まる危険性があるようです。
ヘリウムは、水素に次いで軽く化学的に極めて安定で、かつ沸点が最も低い物質であるなどの特長を持つため、浮揚用ガスや冷却剤などの工業材料として広く活用されています。ヘリウムは水素に次いで宇宙で2番目に豊富な元素ですが、地球上では大気にわずか0.0005%しか含まれておらず空気中からの採取は極めて困難であるため、一般的には天然ガスの産出時の副産物として採取し精錬されます。
ヘリウムの貯蔵量はアメリカが最も多く、全世界の貯蔵量の約3分の1を備蓄し、全世界の商用ヘリウム生産量の約80%を占めています。アメリカにおけるヘリウムは、テキサス州アマリロの米国連邦ヘリウム貯蔵庫に備蓄されています。1925年に開業したこの施設は、当時、飛行船用のガスを供給する目的で運用されていましたが、やがてソ連との冷戦が激化し宇宙開発競争が進むなか、アメリカ政府により戦略的にその備蓄量は増大されました。しかし、冷戦が終結した1990年代にアメリカ政府の負債が増大するのに伴い、過大に備蓄されていたヘリウムの一部を除きすべて民間企業に売却する法律(Helium Privatization Act of 1996)が制定され、2015年に備蓄分をすべて売り切り米国連邦ヘリウム貯蔵庫は閉鎖されることが決定しています。