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シリアの選挙

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  『第10期シリア人民議会選挙(2012年5月)』

概要
2012年5月7日、第10期人民議会の投票が行われた。

 チュニジアやエジプトでの政治変動に触発されるかたちで2011年3月に激化した反体制運動に伴う混乱のなかで実施されたこの選挙は、2011年8月に制定・施行された政党法(第100号)および選挙法(第101号)に基づく初の国政選挙であり、また2012年2月に施行された新憲法のもとで実施された初の国政選挙でもあった。バッシャール・アル=アサド大統領は2012年6月3日の人民議会議事堂の演説で第10期人民議会を「第1期人民議会」と呼んでいるが、この呼称は新憲法のもとで初めて選出された複数政党制に基づく議会であることをアピールしようとする政権の意思を示すものだと言える。

2012年3月15日~3月21日、選挙法第25条に従い、各県の小委員会において立候補者受付。
2012年3月19日、アル=アサド大統領が2012年布告第120号を発し立候補者受付期間を3月28日まで1週間延期。
2012年5月7日、投票日。
2012年5月15日、選挙最高委員会がダマスカスで記者会見を開き、ハルフ・アル=アザーウィー委員長が第10期人        民議会選挙の結果を発表。

 第10期人民議会選挙には、政党法のもとで認可された野党(新党)が人民議会発足後初めて立候補を擁立して選挙戦を戦った。拙稿「第10期人民議会選挙をめぐる「新党」の動き(2012年5月)」で述べた通り、2012年5月の段階で9つの政党が新たに認可された。だが、進歩国民戦線が4月末から5月初めにかけて「国民統一リスト」を発表し、3分の2強の議席の確保をほぼ確実にしたため、約半数の新党は投票日までに選挙への不参加を表明、最後まで選挙戦を戦ったのは、シリア国民青年党、アラブ民主団結党、シリア民主党、国民青年公正成長党の4党にとどまった。

一方、公認申請を行わず反体制組織として活動を継続した国内の政党・政治組織・政治同盟は、民主的諸勢力国民調整諸委員会、シリア国家建設潮流など、その多くが選挙をボイコットしたが、変革解放人民戦線、シリア・クルド人国民イニシアチブは立候補者を擁立した。

またシリア国民評議会など、国外で活動する政党・政治組織・政治同盟はそのすべてが選挙をボイコットした。

なお選挙最高委員会の発表によると、有権者総数は10,118,519人で、うち5,186,957人が投票、投票率は51,26%だった(各政党の獲得議席数、当選者氏名などについては「(5) 政党・政治組織別議席数」、「(6) 第10期シリア人民議会議員一覧」を参照)。しかしKull-nā Shurakāʼ(5月20日付)は、ダマスカス県の信頼できる消息筋の話として、第10期人民議会選挙の投票率が実際は12%にも満たなかったと報じた。

その後5月16日、アル=アサド大統領は2012年布告第169号を発し、第10期人民議会当選者を承認、5月21日には2012年布告第172号を発し、5月24日に第10期人民議会を招集することを決定した。

5月24日に招集された総選挙後初の特別会では、選出された議員が就任宣誓を行ったのち、議長など役員の選挙が行われ、バアス党が擁立した候補者が議長、副議長、事務局長に就任した。
 議長:ムハンマド・ジハード・アッ=ラッハーム(Muḥammad Jihād al-Laḥḥām)。
 副議長:ファフミー・ムハンマド・ハサン(Fahmī Muḥammad Ḥasan)。
 事務局長:アブドゥルムウティー・ムハンマド・マシュラブ(ʻAbd al-Muʻṭī Muḥammad Mashlab)、ハーリド・アル=アッブード(Khālid al-ʻAbbūd)事務局長。
 監査役:マーリヤー・ジャミール・サアーダ(Māriyā Jamīl Saʻāda)、ラーミー・ムハンマド・サーリフ(Rāmī Muḥammad Ṣāliḥ)。

選挙区(県)毎の定数配分

選挙区 総数 A部門
(労働者・農民代表) B部門
(その他の人民諸組織代表)
ダマスカス県 29 10 19
ダマスカス郊外県 19 10 9
ヒムス県 23 11 12
ハマー県 22 13 9
アレッポ市 20 7 13
アレッポ県諸地域 32 17 15
イドリブ県 18 12 6
ラタキア県 17 9 8
タルトゥース県 13 6 7
アッ=ラッカ県 8 4 4
ダイル・アッ=ザウル県 14 8 6
アル=ハサカ県 14 8 6
ダルアー県 10 5 5
アッ=スワイダー県 6 4 2
アル=クナイトラ県 5 3 2
計 250 127 123
(出所) 選挙法(1973年4月14日立法令第26号により制定、1981年10月2日立法令第24号、1986年1月9日立法令第2号、1990年4月12日立法令第4号、1998年8月4日立法令第5号、2007年3月7日立法令第100号により改正)より筆者作成。

各選挙区における各地の投票所数、有権者数、立候補者数

選挙区 投票所数 有権者数 立候補者数
ダマスカス県 791 1,098,635 900人以上
ダマスカス郊外県 641 1,143,979
ヒムス県 627 1,331,556 490
ハマー県 1,000 1,280,051 482
アレッポ市 455 1,200,698 1,322
アレッポ県諸地域 955 2,232,867
イドリブ県 103 1,148,384 171
ラタキア県 817 863,180 665
タルトゥース県 171 670,113 380
アッ=ラッカ県 510 565,428 317
ダイル・アッ=ザウル県 656 973,209 167
アル=ハサカ県 759 1,004,585 367
ダルアー県 223 633,507 126
アッ=スワイダー県 309 339,662 発表されず
アル=クナイトラ県 175カ所(同県からの難民が居住するダマスカス県、ダマスカス郊外県、ダルアー県、アル=クナイトラ市に設置) 302,790 170
(出所) SANA, May 3, 2012をもとに筆者作成。
                                        選挙

政党・政治組織別議席数

政党・政治組織 議席数
進歩国民戦線 アラブ社会主義バアス党 158 180
アラブ社会主義連合党 2
アラブ社会主義者運動アフマド・ムハンマド・アル=アフマド派 2
国民誓約党 1
統一社会主義者党 4
統一社会民主主義党 1
アラブ民主連合党 1
シリア共産党ウィサール・ファルハ・バクダーシュ派 3
シリア共産党ユースフ・ファイサル派 3
シリア民族社会党イサーム・アル=マハーイリー派 5
変革解放人民戦線 人民意思党 1 5
シリア民族社会党インティファーダ派 1
無所属(ないしは不明) 3
シリア・クルド人国民イニシアチブ 1
無所属 64
計 250
           選挙2


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